惣作遺跡の習書木簡について

Date 2010/7/1 15:00:00 | Topic: 埋文

1 名 称:習書(しゅうしょ)木簡
※ 習書木簡 文字の練習をした木簡

2 出土場所:惣作遺跡(安城市木戸町)

3 大きさ・形状等
(1)大きさ:長さ573mm×幅32mm×厚さ7mm
(2)形 状:細長い板状
(3) [巻カ]
(表)・「道大巻得得麻呂 得□□大□天平護田 呉部足国」
(裏)・「□ 大 本 本 本 本 本 本本 [ ]」

4 出土の経緯
惣作遺跡の調査において平成20年11月26日に出土しました。出土時は文字の一部しか確認できませんでしたが、水浸け保存を行っている過程において、さらに判読できる可能性がでてきたため、日本福祉大学名誉教授 福岡 猛志(ふくおか たけし)氏および名古屋大学准教授 古尾谷 知浩 (ふるおや ともひろ)氏に釈読をお願いしました。

5 出土状況
(1)遺跡の概要
 遺跡は標高約7mの鹿乗川左岸の沖積地上に展開します。遺構としては、弥生時代中期から平安時代の集落の建物(竪穴建物・掘立柱建物)や水田遺構、川の跡が検出されています。また出土遺物は、集落域では弥生時代中期の土器が最も多く、川の跡からは古墳時代 前期の土師器や木製品が多数出土しています。
(2)出土状況
 木簡は平成20年度に調査した、08A区の木簡川の跡より出土しています。川の跡は大きく上下2層に分かれ、下層は弥生時代から古墳時代、上層は奈良時代から平安時代の堆積がみられます。木簡は上層から出土しました。木簡は2つに折れて分離した状態でしたが、近接する位置で出土しています。上層からは10世紀の灰釉陶器や曲物が出土しており、木簡はこれより古い時期であると判断されます。

4 意 義
木簡に記された文字は奈良時代の書風であり、その筆致から書き手は比較的高度な文字の教育を受けた人物であったことがうかがえます。惣作遺跡の南には寺領廃寺(じりょうはいじ)という奈良時代の寺院跡があり、寺院にかかわる人物の可能性もあります。
 「呉部足国」(くれべのたりくに)は人名になります。「呉部」(くれべ)という氏族は渡来系氏族と考えられています。正倉院文書には、三河国碧海(あおみ)郡呰見(あざみ)郷の戸主として呉部呰麻呂(くれべのあざまろ)、および戸口に呉部清虫がみえ、三河地域の古代氏族と考えて差し支えありません。人名が解読できる木簡と
しては県内初例です。
 呰見郷は現在の西尾市東浅井町・西浅井町に想定されていますが、惣作遺跡から南東へ1.3kmという至近の距離にあり、そこに実在した人とも考えられます。




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