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 牛牧遺跡の剥離技術の解明のため、上の写真左の鹿角を用いて、剥離実験を行った。使用した石材は二上山産のサヌカイトである。ハンマーは先端径が約3ミリとやや広めであり、牛牧遺跡で用いられた先端の鋭いハンマーとはやや様相が異なる。しかしながら、ハンマーの材質と石材の関係、および剥離方法の違いによる剥離面様相を確認する目的には、力学的には何ら支障はない。
 写真右は鋸歯縁の製作例である。ハンマーを実験剥片に急角度に当てて押圧で剥離を行った。急角度の剥離の関係で、バルブがよく発達しているものの、コーンはさほど明瞭ではなく、打点部に潰れも観察できない。これはソフトハンマーの特徴であり、鹿角はサヌカイトに対してはソフトハンマーとして作用していることがわかる。

 写真左は鹿角による間接打撃例である。平らな剥離面が試験剥片の奥まで延びている。これらの剥離面は平面形態が似通っており、また規則的に並んでいる。間接打撃では、あらかじめハンマーを石器に当て、打撃点や打撃方向を確定してから剥離作業にはいるので、写真のような同じような形の剥離面が何枚も並ぶことになる。一方、押圧剥離(写真右)も、同じようにあらかじめ打撃点と剥離の方向を定めてから剥離作業にはいるが、剥離を行うために加えられる運動エネルギーは間接打撃に比べると非常に小さく、負荷速度(剥離のために力を加える速度)も非常に遅い。そのため、よく似た剥離面が規則正しく並ぶものの、剥離面の大きさは非常に小さく、ことにサヌカイトや下呂石のような硬い石材では、剥離を石器の内部にまで延ばすためには工夫が必要である。
 写真左を観察すると、中央の剥離面では、やや発達したバルブが観察できるものの、コーンは明瞭でなく、打点部分に潰れが見られない。また、すぐ下の剥離面は、ハンマーを当てた場所よりも石器の内側から剥離が発生する曲げ型の剥離面となっている。曲げ型は、打点・コーン・バルブのいずれも生じない剥離で、ソフトハンマーを使った剥離作業で比較的多く発生する剥離の型である。以上の観察結果はいずれもソフトハンマーの特徴を示しており、鹿角がサヌカイトに対してはソフトハンマーとして作用していることがわかる。
 写真右の押圧剥離を観察すると、やや発達するバルブと明瞭でないコーン、潰れの認められない打点部分と、全体的な剥離面の様相は間接打撃の例と同じくソフトハンマーの特徴をよく表している。間接打撃との違いは、剥離面の大きさや、剥離された剥片の厚さといった剥離の規模の差である。この差は前述の剥離を行った運動エネルギーの大きさの違いが反映しているものと言えよう。